町田康『人間小唄』読了

人間小唄 (100周年書き下ろし)
人間小唄 (100周年書き下ろし)町田 康

講談社 2010-10-19
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どつぼ超然 あなたにあえてよかった―テースト・オブ・苦虫〈8〉 猫とねずみのともぐらし (おはなしのたからばこ) 犬とチャーハンのすきま 歌うクジラ 下

先月末に既に読んでいたのだけど、なかなか感想が書けず。頭の中でいろんな思考を整理してから…と思って少し読み返したりしたけど、うまいことまとめられそうにもないので、まず大雑把な感想を。


読んでるうちから感じたのは、『告白』のインタビュー(http://book.asahi.com/zeronen/TKY201004210239.html)でマーチダ先生が語っている「この十年の変な感じ」を持ちつつ「これからの十年のことを重苦しく感じつつも適当に生き、しかしそれをちゃんとした小説にしないといけないのだろうなあ」というところ。まさにそれを実践されている感じがしました。特にこの十年の変な感じはこの小説の中ではとてもリアルに書かれていて、可笑しくもありせつなくもなりました。


「一方で怒りながら一方でその人と同じことをする矛盾」、これは『どつぼ超然』の一節だけど、この小説でもそうだと思う。相手に言っていたこと(相手に納得いかなかったこと)が、自分に戻って来ているというか、結局同じことをしてしまっている人間の性。自分の問題だと深刻になってしまうけど、ちょっと客観的に見ると、まぁこんなもんなんだね…と少し思えるような。諦めと可笑しさ?


それにしてもあっという間に数時間で読めました。一気に読んでしまいたくなる感じでとにかく面白くて(くだらなくて…w)。冒頭の短歌も結構好きw 特に好きなのは「莫迦なひとは死んでいいよと正確に嘲る声がすっげえあざやか」「臆病なあなたに問いますどうしたのですか。ただ生きてますボボンボボンと」。


以下、気になったところを引用します(未読の方はご注意下さい)。。

 そのような人が、なんとなく耳触り、目触りがよい、としているものを猿本は凡庸な感覚で作っている。
 そのことがなにを齎すかというと、感受性の墜落のような劣化、である。そして、その墜落するように劣化した感受性に基づいて作られたものに影響された感受性に基づいて作られたものは、墜落した感受性に影響を及ぼし、その劣化した感受性に基づいて作られたものがさらなる感受性の墜落を招き…、という泥沼に全国民が嵌まっていく。
(p.194)

なんか気づいたら感じてた違和感。ある頃からなんか良く分からない価値観というかなにかおかしいというか、このままでいいのかなぁという感じ。どこへ行くんだろうという不安。「感受性の墜落のような劣化」、もう始まってる。

牛肉は腐りかけが一番うまい。鳥の将に死なんとする。その声や哀しい。人の将に死なんとする。その言や善し。俺は崩壊寸前の言葉を信じられない。崩壊した言葉しか信じられないのだ。そしてそんな風に俺を生んだ両親を恨んでいるのだろうか。そんなことは夜になってみないとわからないのだろう。俺はすべてを忘れて米を買いにいった。
(p.155)

 神々の試しとしてのクイズ。生きていくということはそのクイズに答えることじゃないかと思う。クイズに答えられれば、ここで生きていられる。答えられなかったら追放される。追放されたからといって安心は出来ない。その、追放された場所にはその場所の神がいて、また問題を出してくる。クイズは永遠に終わらない。そんなだったら、もう生きてもつらいだけだから自殺する、といっても駄目だ。死んでもクイズは終わらないのだ。
(p.238)

他にも気になったところはたくさんありますが、ここら辺にしておきます。いま『どつぼ超然』を読んでいるのですが、文体?っていうか構成は違うけどベースは同じというか、『どつぼ超然』と『人間小唄』が三位一体となっているというか(「三」じゃないけど…w)。私個人的にはだめ押しな感じもするw 現実を見ろって言われてるような。頑張らないとねぇ、適当に。


それと『人間小唄』も「あれって結局なんだったんだ?」的な疑問点も少しあるので、もう一度読みたいなぁと思う。そうそう、講談社の頁(http://shop.kodansha.jp/bc/100/past/machida_index.html)に手書きのメッセージがあります。私、これ、ダウンロードしてデスクトップの画像にしてます(少し文字がギザギザしちゃいますが)。パソコン立ち上げる度に元気出ます(笑)。あ、ティーシャーツプレゼントも応募しないと!

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町田 康

毎日新聞社 2010-10-15
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