町田康『テースト・オブ・苦虫8 あなたにあえてよかった』読了

あなたにあえてよかった―テースト・オブ・苦虫〈8〉
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中央公論新社 2010-05
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USTREAMで4月に行われた朗読会(http://www.ustream.tv/recorded/5925909)の様子見て、あぁ「テースト・オブ・苦虫」読みてぇ!と思ったので、本屋さんに行きパラパラみていたら、あ、これは! その朗読会で「未発表」として読んでいたのは、先日発売された『苦虫8』からだったんですねぇ! というわけで、さっそくバイ貝。歯が痛いのもなんのその、爆笑しながら一気に読んだのでした。


どれも「読売ウィークリー」で連載されたもの。2007年2/25〜2008年5/11・18号とのことで、内容的には古いものもあります。でも、そうそうそんなことあったよなぁと思い出しつつ、いや、今と変わらないなぁとか、もっとひどくなったんだよ、マーチダ先生!と、本の中の昔のマーチダ先生にこころの中で報告したり…(苦笑)。


エッセイは、社会風刺的にまじめに始まったかと思いきや、話はあらぬ方向に。それがただの愚痴やお茶目で終わらないところがマーチダ先生の凄いところです〜。というか、どの噺も「そうなんだよねぇ!」と頷きながら読める。孤独感が強い私ですが、このエッセイ読んでるとちょっと元気になります。あ、私だけじゃないんだな…と(笑)。


上のリンクの朗読会で読んでいるのは、先日の日記(id:n_n:20100522:p1)にも書いたけど『テースト・オブ・苦虫4』から2篇、そして未発表から4篇でした。その4篇は以下の作品です。

・安全地帯でバンジージャンプ(p.39)
・あらゆる人を謝絶する(p.59)
・人格のミックスジュース(p.76)
・自分についての不思議な現象(p.165)

この前の日記で書いた「自分が好きになるお店が閉店になったり好きなものが廃盤になったりする」というのは「自分についての不思議な現象」にたっぷり書いてあるので、そういう経験のある人は是非!w 町田康ってどんなこと書いてるんだろう?という方は朗読を聴いてみたらいいかも。


どのエッセイも面白いんだけど、あ、やっぱりマーチダ先生もそこに注目していたのかって笑えたのは、以下のところ(ちょっとタイムリー?だし引用)。

かつて安倍政権を、「ボクちゃんのボクちゃんによる、ボクちゃんのための政治」と批判していた福島瑞穂社民党党首は「ボクちゃんの投げ出し内閣」と、やはり批判していて、いいなあ、なるほどなあ、と私なんかは愚考するのである。(中略)自分だって文章の輩、福島瑞穂社会党党首には及ばぬまでも、こうした気の利いた言い方はぜひともこれをまねびたいナー、なんて語尾カタカナで愚考するのである。(p.100『あらゆるものにレッテルを』より)

福島さんってことあるごとに脱力するフレーズを発してたんで、その度にいつもつっこみを入れていたのですが、マーチダ先生も気になっていたんだなぁ。本文では瑞穂さんにならって「商魂丸出し、ゼニゲバのゼニゲバによる、スカスカマルハゲ寿司」とか「色彩崩壊・原因不明のヨークシャテリア建築」とか、あらゆるものにレッテルを!w


また、小説を書く場合、小説の筋よりも主人公の名前を決めると「そうした名前の持ち主がしそうなこと、言いそうなことをゆるゆる書いていけば、それなりに小説みたいなものになっていくのではないか、と」考え、以下に続きます。

具体的に言うと、例えば主人公の名前を中原中也とした場合、この中原中也が気のいい魚屋の兄ちゃんで、白い前掛けをして岡持を提げ、愛想良く町内を配達して回る、御用を訊いて回るというようなことにはなりにくく、魚屋なのに帽子をかぶりマントを羽織り、奇怪な文様や仏文の描いてある岡持を下げて町内をふらふら彷徨し、「ホラホラ、これが僕の白い鰆(さわら)だ」なんてぶつぶつ呟いている、みたいな魚屋にどうしてもなってしまうのである。p.174『名前の苦しみ』

「僕の白い鰆」って!(中也の詩『骨』より>正しくは「ホラホラ、これが僕の骨だ」)こんな魚屋嫌です!w


なんだかんだいって結構引用してしまったので、ここら辺で…。シリーズ最終巻ということですが、それに見合う爆笑の1冊になったんじゃないでしょうか〜。苦虫シリーズ読んだことない人もきっと楽しめる、はず。とりあえず朗読聴いてみてください。

http://www.ustream.tv/recorded/5925909

追記

さすがの福島さんも、今回のゴタゴタ時には気の利いたフレーズは出ませんでしたね(苦笑)。。