河合隼雄『猫だましい』読了

猫だましい (新潮文庫)
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star猫という生き物の魅力を多角的に分析、自分的にも再確認
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 それにしても、なぜこれほどまでにペットが人間の心を惹きつけるのだろう。それは、人間がたましいという不可解な存在をもっているからだと考えられないだろうか。自分の内にあって、把えようのないたましいというものが、何かの姿をとって顕現してくる。あるいは、たましいのはたらきを何か外的なもののなかに認める、というとき、ペットがその役割をする。そして、犬よりは猫の方が、たましいの不可解さ、とらえどころのなさをはるかに感じさせるように思われる。

上の文章を含む「なぜ猫なのか」という1章は、たましいの話、エジプトの神猫、猫マンダラの話が中心。その後始まる猫本(小説、民話、絵本など猫を主人公とする本)をもとにした「猫を通して人間のたましいについて」語る前の簡単な説明といったところ。でも、これだけでも、「なるほどー!」って思う部分がありましたねー。一気に河合隼雄ワールドへ惹き込まれてしまった感じ。


取り上げられた作品は、E・T・A・ホフマン『牡猫ムル』、『長靴をはいた猫』、ルグウィン著/村上春樹訳『空飛び猫』、宮沢賢治『どんぐりと山猫』、佐野洋子『100万回生きた猫』、ポール・ギャリコ『トマシーナ』、大島弓子綿の国星』など。いずれも、猫が出てくる作品の面白さを解説してくれているのですが、先生ならではの洞察力に、よりその作品が味わい深く感じられるような気がしました。

 しかし、それでいいのだろうか。人間は結局のところ、大人になって落ち着くのが人生であろうか。ホフマンはそうは思わない。だからこそ、一人の女性への一途な恋に生き、そのなかで複雑怪奇な経験を重ね、狂の世界に突入していく男性の話をそこに挿入し、合わせてひとつの人生であることを主張したかったのだと思われる。
 人生はこれほども多層的で、興味深いものであるのに、単層的なところにのみ目を向けている人が多いのではなかろうか。そう考えると、反故同然の伝記や自伝が沢山出版されているように思えてくる。(P.44『牡猫ムル』より)

 ファンタジーの本質は「なぜなしに存在し、なぜなしに納得させられる」ことではないだろうか。結局、タビーお母さんは「さっぱりわけがわか」らないのに、子どもたちに翼があり、この本を読むと、私など「そうだ、そうだ」と納得してしまうのだ。そんな馬鹿ななどという人は、人生を真剣に生きていない人である。中世ヨーロッパの大賢人、マイスター・エックハルトは、人間は「なぜなしに生きる」と喝破している。なんのためにとか、なぜなどと言うことはない。人間はなぜなしに生きているのだから、人生を語るファンタジーは、なぜなしに成立する。(P.74『空飛び猫』より)

そうそう、『空飛び猫』『帰ってきた空飛び猫』は読んだことがあって、その2冊で完結していると思い込んでいたのですが、この本で取り上げられている段階で『素晴らしいアレキサンダーと、空飛び猫たち」を含む三部作だったと知りました! で、Amazonで調べてみたら、その後『空を駆けるジェーン』という第四弾も出ていたんですね〜。うぅ、読みたい。河合先生の解説なしでも十分楽しめたのですが、もう一回じっくり読みたくなりました。特に読んでないシリーズを(苦笑)。


他に読みたい!と思ったのは、ポール・ギャリコの『トマシーナ』。「猫のトマシーナを飼っている獣医のアンドリュー・マクデューイとその娘、メアリ・ルーダとの間に繰りひろげられる葛藤が描かれるのだが、その合間、合間にトマシーナの独白が入るという形をとっている」と先生も冒頭では簡単に解説していますが、いろんな問題が複雑に絡み合っていていろいろ考えてします。そして、紹介されていたトマシーナの独白が私には衝撃的で。。「猫が出て来て楽しい話」(ハッピーエンド)で終わらないのは予想がつくけど、それでも(だからこそ)読んでみたいという気になりました。※基本的にハッピーエンドは好きではないので


もう一つは、大島弓子の『綿の国星』。私はほとんどマンガは読まないので、大島弓子も名前しか知りません。でも、これも河合先生の解説を読んでいたら興味津々ですよ。大島弓子がいろんな作家から評価されているのはこういうところなのか〜と初めて実感出来た気がします。『猫だましい』の巻末には、大島弓子による感想マンガも掲載されています。これもまた趣きがありました。


最後にありきたりな感想を。猫と本が好きな人は是非読んで見て下さい(笑)…。それと、ちょっと心理学に興味がある人はより楽しめると思います。

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