河合隼雄/村上春樹『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』

村上春樹、河合隼雄に会いにいく (新潮文庫)
村上春樹、河合隼雄に会いにいく (新潮文庫)
新潮社 1998-12
売り上げランキング : 4215

おすすめ平均 star
star村上信者必読!
star現代の神話「1Q84
star魂を描く作家と魂を癒す心理療法家の対話

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

実は両者ともあまり著書を読んでないのだけど、なんか気になって読んで見ました。この対談が行われたのはちょうど村上春樹が『ねじまき鳥クロニクル』を発表した時期(阪神大震災オウム事件のあった頃)だったようで、その作品に対する姿勢というか思いというか、そんなことが結構頻繁に語られているのでファンの方には面白いんじゃないでしょうか。私は未読でしたが、この対談読んでかなり読みたくなりました。


対談のテーマは、コミットメントということ、言語かイメージか、自己治癒と小説、結婚と「井戸掘り」、物語と身体、治ることと生きること、日本社会の中の暴力…など。結婚って「井戸掘り」だということ、「苦しむために結婚するんだ」という河合隼雄の定義にはハッとさせられました…(苦笑)。あと、『源氏物語』ってそんなにすごいのかな…とか、箱庭療法など河合隼雄がやってきたことについてもっと知りたくなったり(『ユング心理学入門』は積読本にはなってますが…)。


少し引用。

村上春樹 

ぼくの考えは、小説にとってバランスというのは非常に大事である。でも、統合性は必要ないし、整合性、順序も主要ではないということです。(p.78)


 コミットメントというのは何かというと、人と人との関わり合いだと思うのだけれど、これまでにあるような、「あなたの言っていることはわかるわかる、じゃ、手をつなごう」というのではなくて、「井戸」を掘って掘って掘っていくと、そこでまったくつながるはずのない壁を越えてつながる、というコミットメントのありように、ぼくは非常に惹かれたのだと思うのです。(p.84)


 小説を書き始めるまでは、自分の体にはそんなに興味を持っていなかったのです。ところが、小説を書いていると、自分の身体的なもの、あるいは生理的なものにものすごく興味を持つようになって、体を動かすようになりました。そうすると、体が変わってくるわけです。脈拍も、筋肉も、体形も。それと同時に、自分の小説観や文体がどんどん変わっていくのもよくわかる。(p.114)


河合隼雄

 しかし、治るばかりが能じゃないんですよ。そうでしょう、生きることが大事なんだから。(p.161)

村上 ぼくは夢というのもぜんぜん見ないのですが……。
河合 それは小説を書いておられるからですよ。谷川俊太郎さんも言っておられました、ほとんど見ないって。そりゃあたりまえだ、あなた詩を書いているもんって、ぼくは言ったんです。
村上 夢を見ないものなのですか、別の形で出していると。
河合 やっぱり見にくいでしょうね。とくに『ねじまき鳥クロニクル』のような物語を書かれているときは、もう現実生活と物語を書くことが完全にパラレルにあるのでしょうからね。だから、見る必要がないのだと思います。書いておられるうえにもう無理に夢なんか見たりしていたら大変ですよ。(p.183~184)

私、毎日夢を見ているんですけど…、夢見てバランス取ってるってことなんかな。もっと詳しく知りたい(笑)。河合先生が言っていた「一人一人が独自の物語を生きること」も、ちゃんと考えてみたいなと思います。対談なのでさらっと読めてしまったのだけど、かなり中身の濃い対談で、とても面白かったです。(なんかAD掘君みたいな感想になっちゃった…)