武田百合子『遊覧日記』読了

武田百合子全作品(6) 遊覧日記(ちくま文庫)』を読み終えた。最後の「あの頃」というタイトルの日記(エッセイ)は戦後の生活のありのままが表現されていて、その時代を知ることもない私でさえ胸が苦しくなる想いになった。彼女の表現力というか、記憶力が凄い。今、まるでその場にいるような感覚に陥る。

 夫が他界し、娘は成人し、独りものに戻った私は、会社づとめをしないつれづれに、ゴム底の靴を履き、行きたい場所へ出かけて行く。一人で。または二人で。二人のときの連れは、H(娘)である。ヤエちゃんのように充実して、あちらこちらを遊覧出来たら、と思う。

と冒頭に。上に書いた戦後の話はそれだけで、後はその当時のリアルな日記です。花屋敷で目撃した「ジェット・コースター男」や、俳句の会で着物を着た女性がころんだところ、上野のビヤホール、「世界びっくり人間大集合」、京都を案内してくれた先生の話…など、その描写が凄くて笑える。笑えるんだけど、せつないって感じかな。人間の悲哀。描写が凄いってのは、やたら説明が長いというのではなく、武田さんには目がいくつあるの?ってくらいいろんなモノが見えている。全てお見通しな感じ? 五感が研ぎすまされているってこういうことなのかなという…。浅草は私も良く通った場所であるのだけど、同じ風景を見ていたはずなのに私の見えないモノが彼女には見えるっていうか。言われてみればそうだけどってことなんだけど、そこは私には見えていなかった。


武田さんの本を読むと、ハッと気づかされることが多々あり新鮮な気持ちになる。こういう気持ち、どこかで感じたことがある。軽いデジャブ体験に、本を読むスピードもゆっくりになっちゃうけど(苦笑)。また、武田さんは淡々としてるのが好き。すんごく感動もしないようだけど(大げさではない)、はげしく落ち込むこともないようで、いつも「真ん中」な気がする。振り回されない。いつも自分の感覚でものを考える。わがままってわけでもないんだけど。ぶれない、というか。そういうの憧れるわ〜(笑)。なんかとりとめもない感想になっちゃいました…。


武田百合子『日日雑記』 - 靴紐直して走るだけ
武田百合子『ことばの食卓』 - 靴紐直して走るだけ