映像表現の秘密 第5回「アニメーションの技法」

中日文化センターでの講座も今月で5回め。予定では「演劇と演出の魔術」だったんですが、急遽「アニメーションの技法」というテーマに変更! というのも前回の講座で、皆のアニメーションへの食いつきが良かったからなんですが(笑)(←古川タクの『上京物語』(小津へのオマージュ?)を鑑賞)。愛知芸術文化センターで、いまちょうど「アートアニメーションフェスティバル」が開催されているけど、こっちでもプチアニメーションフェス開催って感じ。以下、ちょっと長いメモ。


まず、ソビエトの作家アレクサンドル・ペトロフ『水の精』(たぶんDVD作品集等で『マーメイド』と評されるものと同じものです)を鑑賞。この人は、油絵をガラス板に指先で描きこつこつ仕上げていくそうな。2〜3年かけて、やっと5分ほどの作品が出来るみたいです…。私には絶対出来ない! この集中力、根気があるだけで感服ですが、その油絵効果で独創的な世界が広がります。指でなぞって少しずつ変化していってるせいで残像がのこるのですが、それがかえってノルタルジックな雰囲気を強調してるし、ま、わかりやすくいうと「油絵が動いてる!」だけでなんだか凄いのです。萩原(朔美=朔太郎さんの孫)先生も言ってましたが、油絵の表現で、あそこまで水のしぶきの表現が出来る(しかもアニメーションっつう)のが凄すぎ。恥ずかしながら私はペトロフのことを全く知らなかったのですが、作品集も発売されてるみたいだし、他の作品も観てみたいな〜と思います。下記の映画のHPに技法について記述がありました。ジブリなどのアニメーションの専門家も彼に影響を受けているようですね。
映画『春のめざめ』公式サイト - ペトロフ監督の技法
アレクサンドル・ペトロフ作品集 [DVD]


カナダの作家2人の作品を観ました。まず、イシュ・パテル。『ビーズ・ゲーム』はビーズがモチーフ。あの小さなビーズが生きてるかのように変幻自在に動きます(こつこつ並べかえ…)。観てる分にはとっても気持ちが良いのだけど、これ、どんだけ時間かかってんだろと想像すると気が遠くなります(笑)。いや〜、楽しい。一方『死後の世界』はプラスチック粘度を使った作品。これもねぇ、技術も凄いけど、テーマ(内容)にも魅き込まれてあっという間に鑑賞終了! もう一人、イシュ・パテル同様、NFB(カナダ映像制作庁)で作品を発表したキャロライン・リーフの作品を観ました。『がちょうと結婚したふくろう』『ストリート』『変身』(カフカの『変身』がベース)は砂を使ってアニメーションを製作しています。「砂でアニメ」と言えば数年前にNTTのCMで注目されたハンガリーFrenc Cakoという人がいたけど(手でシャ〜っと絵を描いていく)、個人的にはキャロライン・リーフの方が度肝抜かれたかな。というのも、先生が言っていた通りで、カメラアングルが凄いのです。いろんな映像を観てきた若い世代の作品とのことですが、観てきてもあんな斬新なカメラワークが浮かぶ人はまれなわけで…。そのカメラワークであっという間にアニメに吸い込まれちゃいます、ほんとに。この人は砂の他に油絵を使ったり(『変身』)、フィルムスクラッチ(『姉妹』)フィルムにそのまま描く)という技法を使ったり、技法もさまざま。それが、その作品のテーマの表現とピタっと合っている。そのセンスも素晴らしい。これらは以下のDVDで観れることを発見ーっ!

NFB傑作選 イシュ・パテル、キャロライン・リーフ、ジャック・ドゥルーアン作品集 [DVD]
〈収録話〉
太陽と月のお話(1971年/14分)/パースペクトラム(1974年/6分)/ビーズ・ゲーム(1977年/5分)/死後の世界(1978年/7分)/パラダイス(1984年/15分)/神様がくれた星(1993年/11分)/がちょうと結婚したふくろう(1974年/8分)/ストリート(1976年/10分)/変身(1977年/10分)/インタビュー(1979年/13分)/姉妹(1991年/10分)/心象風景(1976年/7分)/エクスチャイルド(1994年/5分)


日本人作家は2人紹介でした。『頭山』で世界的に名が知られるようになった山村浩一。その『頭山』を鑑賞。これず〜っと観たかったので観れて嬉しい(笑)。落語の「あたま山」を原作(っていうの?)にアニメーションが展開されていくのですが、実写のような繊細な色使いに個性的な登場人物という(私には)ギャップのある対比表現が面白かった。つーか、話もアニメも面白い(笑)。落語はいまちょっとだけ気になっています。ちょっと前にNHKでたまたま観た『えほん寄席』。これ子供向けのアニメ作品なんですが、大人が観ても十分面白い〜! 落語って楽しいなと素直に感じたのです。ま、落語が気になっているのは町田康が落語好きだからというのもあるけどさ(彼の文体が落語ちっくとか言われてますね)。そうそう、彼の記事が載ってたので落語特集の『ブルータス』を買ったんだった。それの付録のDVDはまだ聴いてないけど、近々チェックしようかな。

「頭山」山村浩二作品集 [DVD]
「頭山」山村浩二作品集 [DVD]
えほん寄席 抱腹絶倒の巻
☆『えほん寄席』はDVDも出てます。これは最新のもの。


2人目は古川タク。代表作である『コーヒーブレイク』を鑑賞。日本のアニメの定番といえば定番すかね。楽しいのでさらりと流しがちだけど、その細かい描写には圧倒されます。今日観た作品のほとんどが「手描き」アニメ。最近はパソコン使って(セル画)のアニメーションが多いけれど(表に出てくるのってそうですよね<ジブリとか)、「手描き」の方がなんか伝わってくる。ぬくもりがありますよねぇ。


最後は、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット岸辺のふたり―Father and Daughter』を鑑賞。これ、先生は「泣ける」そうです。親子(父と娘)の話に弱いみたいです(笑)。いや、ほんとにジーンと、せつなくなりました。シンプルな画面だけに難しい表現を、見事にこなしてる感じ。先生は「墨絵のよう」とおっしゃっていました。
岸辺のふたり―Father and Daughter



う〜ん、どの作品も素晴らしい! 「プチアニメーションフェス」は、かなり充実してました(笑)。次回(来月)は最終回! 寂しいな。