感性の人と哲学の人

諸国空想料理店 (ちくま文庫)味覚日乗 (ちくま文庫)
2冊読了。高山なおみさんの『諸国空想料理店』と、辰巳芳子さんの『味覚日乗』。高山さんの本は今はなき「kuukuu」でのこと、タイやベトナムに旅行した時のことなどがレシピとともに綴られているもので、彼女の初エッセイらしい。たしかに初々しい部分も感じるけど、情景が思い浮かんだり、料理のおいしそうなかおりのする文章ってなかなか書けない。料理にも文章にも感性が研ぎすまされてる感じがする。


一方の辰巳さんの本は、生活のなかに溶け込んだ料理、素材のことを的確な文章で、そして微笑みをまじえて書いてある感じ。なにしろ小さい頃から料理家である母親の元で育ってるから、知識の豊富さは凄い。それをひけらかすのではなく、大袈裟にいえば愛を込めて伝えてくれてる感じ。私の大好きな「むかご」を取り上げた文章があった。昔は(うちだけかもしれないけど)、土手につくしを取りに行ったり、両親は山菜をとりにいったり、落ちてるむかごを拾ってきては蒸かして食べてたっけ。そんなことを思い出したりなんかした。

高山さんと辰巳さんをくらべると、タイトルにもしたけど、高山さんは感性の人、辰巳さんは哲学の人という気がする。それは文章だけのことではなく、作られた料理にも反映されていると思う。高山さんのひらめきは、そのひらめきが生まれた瞬間のフレッシュさが料理にもある。辰巳さんの料理には、長年の経験にうらうちされた哲学がある。高山さんを始め、魅力的な料理家はたくさんいるけれど、感性だけでは限界があるのではないかと思ったりする。辰巳さんは感性+経験=哲学という気がするので。どんなに高山さんや有元さんが頑張っても何十年という経験の差がある以上、辰巳さんにはかなわない気がするんです。だからといって高山さんらがダメっていってるわけじゃなくて、辰巳さんの凄さを伝えたいだけなんですけどね…。高齢のせいか最近痩せてきているのが心配。お元気なうちに、いろんなものを吸収しておきたい気がします(昨年、講演会に行けて幸せでした)。