いしいしんじレクチャー@メリーゴーランド

私にとって過去最高の長文ですので、何卒ご注意下さい。


私にとっては2回目の「いしいしんじレクチャー」。前回は大竹伸朗「全景」展のこと、直島のこと、『みずうみ』のこと、おすすめの本など盛りだくさんな内容でした。今回はどんなかな〜と楽しみに、メリーゴーランドに向かいました。午前中は料理教室だったので、それがお昼前に終わってから名駅まで出て、そこから近鉄で移動。12時21分発の電車に乗り(お昼は電車内でパンをむさぼり喰うw)、お店には1時10分頃到着。トイレに一目散の後(苦笑)、すぐ列に並んじゃいました。お店を見ようと思ったんですが、見ていてもきっと落ち着かないので(笑)。


移動の車中であきらかに私のことと思われる「ニューファッション?何あれ?」という男子の会話にムカっ。きっと私の「足袋靴」のことだろうな、と。視線には慣れてるけど、あぁいう露骨なのはちょっとね。その男子がださかったからより凹みました(笑)。が、ここで並んでいる時「素敵な靴!」となんと足袋靴を褒めくれた人がいて、かなり嬉しかったな。どうもどうも、です。すると、ドアの向こうにいしいしんじの姿が! 会場にご到着の瞬間です。後ろにいるのは園子さんかしら。つーか、赤いズボン! あれは前回はいていたものと一緒だ、絶対!


2時からの開催で、開場は1時半。時間が来たので、順番に会場へ突入となりました。私はかなり最初の方に入ったのですが、一番前ってのもどうか?と思い、2列目にしようかななんて場所を探していたら、「一番前も空いてますよ!」と言ってくれた方(先と同じ方!?)がいたので、そう?それなら〜と、一番前の結構いい位置に座ることに。わぁ、こりゃ目の前だ! イベントまであと30分。腰痛対策のレメディや、いつもお昼にとることになってるレメディ、水に溶かした「水ポーテンシー」をのみつつ、万全の体勢をとる私。ですが、まわりからしたらきっと(たぶん)かなり怪しい動きだったでしょう。すみません。


イベントは、通称「ひげのおっさん」こと、メリーゴーランド店主増田喜昭さんのあいさつから始まりました。その中で、素敵な情報が発表されました。なんとメリーゴーランドとフェリシモで絵本のシリーズを発行するそうなんです。5月くらいから配本とのことなんですが、作家さんのセレクトに注目です。すでに江國香織さん作・宇野亜喜良さん絵の組み合わせでの1冊が決まっている模様! そして、なんといしいしんじによる「赤ずきん」も予定されているそうです!あぁ、フェリシモやってて良かったと珍しく感じますが、一般の人でも買えるようにしたいとひげのおっさんはたくらんでいる様子(フェリシモ側はどう対応するんだろか)。そして、「今回のいしいさんはすごいよ〜」とニヤニヤしてるおっさん。この後、おっさん自体がすごい体験をすることになるとは思ってなかったでしょうに(笑)。


ひげのおっさんに紹介され、いしいしんじが登場しました。会場がどっと笑いに包まれるのは一体なんなんでしょう(笑)。あ、やっぱり!ていうか、デジャブかと思った。あれは前回と同じ赤いジャージ下。そして、上に着ている白と水色のストライプシャツも! 違うのは上に着ていたセーターの色かな。今回はグレーのカーディガンを、後ろにボタン側をもってきて着ていました(後ろ前に)。お洒落になりきれていないのが、なんだか不思議…。あぁ、でもそれは足袋靴をはいてもっさり男子につっこまれる私も同じか(苦笑)。


話は、大竹伸朗のことから始まりました。前回のレクチャーで話した通り彼の「全景」展に感動したいしいしんじ。その後、青山ブックセンターで、大竹氏とのトークショーが開催されたんですが、それが初対面だったそう(これの為に展覧会を見たというのもある)。トークショーが終わり、打ち上げで話し、また場所を変えて話し、じゃ!と別れたのが翌朝になったんだとか(笑)。それ以来、合う度にそんな場外トークショーが何度も繰り広げられていたそう。昨年開催された「描くことと、書くこと」がテーマの2人の対談も聞いてみたかったな(慶応大学アートセンターにて開催だったそう)。いしいしんじは、彼とのトークショーの前に、全国に今ある大竹作品を見に、博多の美術館だったり、直島はもちろん、別海(北海道)まで行ってたんですね(←ここでもトークをしていたんですね!)。そして、なんと今年中に、この2人の共著本が出版予定とのこと。絶対買う。
http://www.aurens.jp/ohtake/2007/11/post_25.html
 別海のイベント写真↑

で、なんで大竹伸朗の話になったかというと、彼との出会いで小説の書き方に少し変化があったそうなのです。『プラネタリウムのふたご』も『ポーの話』も、最初の一行というか、書く何かが身体の中から出てくるものをじっと待っていたそう。出てくるまで出てくるまで…ひたすらずっと。結局『ポーの話』では、なにもしないで7ヶ月が経ったころ、満を持して文章が出て来た…という(出てくれば一気に書けるんですよね)。


だけど、最近(昨年)は、「書くことと、読むこと」(それは「描くことと見ること」でもある)になってきたそうです。たとえば、

A.「私の母はフライパンをもったまま死んだ。」
という文章が最初にあれば、それをひたすら読んでみる。次に出てくることを待つ。ハッとするものが出てくるまで「平均で1000回は読んでる」そうです。すると、ポッと出てくると。

A.の文章を読んで
B.「□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□」
という文章が出てきたとします。そしたら今度はB.を何度も読む。そして次を待つ。
C.「○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○」
が出来る…。これの繰り返しをしているそうです。だから、A.の時C.のことは考えられない(考えない)。

このような方法で、「時々『え!』と驚くようなものが出てくる」と。なんか前回のレクチャーと違い、かなり「文学的」な内容に興味津々。いしい先生!っていった風貌に見えてくる(笑)。高校の国語の先生っていうかさ(先生ってジャージはいてるし)。「いつもこのレクチャーはエッセイになっているので、今回はしゃべる小説にしようかと」と告白。なるほど〜。


そして、今度はいしいしんじによる朗読です。東京新聞に書いた『美術掌編小説』の一編『野生の馬』。これが、適当な数行まとめて、上下左右というかランダムにプリントに配置されています。いしいしんじが朗読をし、皆がその文字を追います。その様がでDJがレコードをまわす感覚、つまりプリントがレコード、字を追い(探し)プリントをまわすのがまるでDJのようということで、これを「文学DJ」というらしい(笑)。ホント?


朗読後、「字を書いている時間より、それ以外の方が長い」「書いて…飛ぶ。どう、どっちへギャップをつけるか」「目で字を追っていなくても『読んでいる』」「ある言葉と言葉の間の「飛ぶ」快感」「(食べものを)咀嚼するというのは、字を追っている状態。ごっくんと飲み込みお腹にあるのが、ページから目をそらすこと」「小説が自分の中に入っていく」「次はどこなんだろうと(プリントの場所を)あわてている時間は、自分の「中」を探すこと。その探すことは、自分の外側を探すことでもある」「読めない時間(目で追わない時間)、その栄養が入ってくる時間をどれだけ多くするか」などと、小説の面白さについて、熱弁してくれました。断片的な言葉しか拾えなくてすみません。


いしいしんじはメリーゴーランドに来る前に高野山に寄ったそうで、そこで読む『今昔物語』や『地獄篇』もなかなかの味わいだった様子(笑)。「場所やタイミングでも読んだ感覚違う」って、たしかに。「小説自体が生きている」「小説は読者の時間の中でおきる事件」とも。


そして、今回のメインイベントが始まります。なんとライブで小説を書くことに。彼の作風をみればわかるように、テーマは何も決まってません(決めません)。まず、短い鉛筆をさらに鉛筆けずりでしっかり削って準備。原稿用紙は、A3くらいの真っ白い紙を使用していました。鉛筆の濃さは、最近目が悪くなってるので微妙ですが「3B」位じゃなかったかなぁ(違ってたらすんませんw)。


すると、間もなく手が動き出しました。カリカリとえんぴつの音が近くで(だって目の前!)します。それと同時に、彼の口から出来上がった文章が即座に読まれます。なんかもうどんどん出てくる。途中まで、その文章をメモろうかしらと思ったのですが、きっと追いつかないと思って止めたほどです。真っ白な原稿用紙が、みるみるうちに文字で埋まって行きます。1枚目が終わったら、書いた原稿用紙を片手で払い落とし、新しい原稿をひっぱりだしました(もう片方でマイクを持っていたため)。というか、すごい集中力。そして、どんどん読まれていく(生まれていく)文章に、わくわくです。最初は出来た文章を読む度にどっと涌く感じでした。登場人物は、増田喜昭。そう、ひげのおっさんが主役。途中からの話の転換が始まったころから、もうみんないしいワールドにどっぷり浸かってしまっていました。がしかし! 不覚にもウトっ!としてしまった私。一瞬ですよ。すぐ起きましたよ(苦笑)。そして、原稿用紙3枚目がぴったり埋まるところで「おしまい」! わ〜、完成した! 最初は本人も「最後まで書けるかどうか(完成するか)分からない」と言っていたんです。くぅ、目の前で繰り広げられる光景、そして、出来た文章直後の朗読って感じの状況に(良い意味で)めまいがしそう〜! 本人は「やってみると意外とラク(笑)」なんて余裕ぶっこいてました! ちなみにこの小説のタイトルは「亀」になりました。


そうそう、素敵なお知らせ再び。年末に行われた朗読会の様子も含め、今日のレクチャーの様子、そして、出来上がった「亀」は、次号(かな?)の『ヨムヨム』の連載に掲載されるそうです。


最後に、朗読タイム。今度は『Lmagazine』(西の旅)で書いた『船』というタイトルのエッセイ。これまた心なごむ内容でしんみりしちゃいました。ていうか、なんで彼のまわりにはこんなに素敵な話が存在するのでしょう。あ、これもプリントを見ながらの朗読でしたが、「DJ」ではなかったです(笑)。


質疑応答コーナーになり、小説で主人公になった増田さん、ひげのおっさんがふたたびステージに登場。「ほんと感動して…」と、出来立ての小説に(良い意味で)おののいていた様子。というのも、実際に亀を飼っていたりとか、猫ではないけど犬のえさを買いに出かけたらお店がやってなかった、とかもうさまざまなことがピッタリ合っていたというんです。そういうことってあるんだな。いや、いしいしんじがそういう能力を持ってるんだろか? 本人はきょとんとしてたけど(笑)。ひげのおっさんが「情景を浮かべながら書くのか」と聞いたら、「バス停なら、それを見ているのではなく、バス停が「ある」感じ。言葉が先」と言っていたのが印象的でした。「描くこと」なんだな、彼にとって小説は。だから、「線を引いているだけ」と。「それが、バス停なり、女の子の姿になっていく」のだと。


おすすめ絵本として、ヨックム・ノードストリュームの「セーラーとペッカ」シリーズを紹介していました。版元の人からこの作品のカラーコピーを見せられ「めまいがした」「こんなすごいものが!」と思ったのだそう。ヨックムはストックホルム在住の現代美術作家。アウトサイダーアートなんておっさんも言っていました。なんか、表紙からして「サイケ」なものがあったり、え??っていうね。それはちょっと大竹伸朗にも似ている感じです。そうそう、このシリーズの帯をいろんな作家がコピーを書いているのですが、荒井良二のコピーに対し、「頭悪い感じ(笑)」「ホントに読んだのか?」なんて言っていたいしいさん。大胆発言(笑)。


そうそう、肝心の質疑応答。最初からステージに置いてあった大竹伸朗「全景」展のカタログ。これ重さが6キロあるとか。つーか、分厚い! これは興味があったんだけど、なかなか手が出なかったんですが、おっさんやいしい氏のセールストークにより、すっかり買う気でいます(笑)。名古屋のナディフにもあるかしら…。あんなに分厚い展覧会の図録ってアリ?思わず笑っちゃう厚さですけどね。


大阪から娘の代わりに来たというおばさま。質疑というより、報告に笑えた。そして、私も気になっていた『トリツカレ男』の舞台についての質問がありました。質問された方は「イメージが違い過ぎる」とご不満だった様子(見なくてよかったかもw)。本人も観たようですが「15分で、これは鍛えられた人の芝居だな」と感じたそうです。原作の話はテレビや映画もあるんだとか(すぐ立ち消えちゃうみたいですが)。どうせなら、全然違うもの、作る人の解釈・イメージで新たに構築されたものなら観てみたいとおっしゃってました。


そんなこんなで、濃厚な2時間が過ぎ、レクチャーの終了。もうお腹いっぱいですよ。でも、デザートは別腹。そのままサイン会に突入です(笑)。さくっとサインをいただき(昨日の日記参照)、セーラーとペッカのシリーズから『セーラーとペッカの運だめし』(いしいしんじのコピーが掲載)を購入し、帰宅の途に。あぁ、楽しかった。前回も、今回も、冷たい風がふきっさらしな季節なので(駅のホームが寒い!)、次回はヂリヂリの太陽が見える季節なんかにお願いしたいもんです。

みずうみ

みずうみ

セーラーとペッカの運だめし

セーラーとペッカの運だめし


超・長文失礼致しました!